【法人税の800万円の壁】中小企業の「軽減税率」をフル活用して手取りを最大化する全戦略【2025年最新版】

会社経営において、売上を増やすことは正義です。しかし、「利益」を闇雲に増やすことが、必ずしも正義とは限りません。

なぜなら、日本の法人税制には「年800万円の壁」と呼ばれる、見えない境界線が存在するからです。

中小企業には、年間の利益(所得)が800万円以下の部分に対して、税率を劇的に引き下げる「軽減税率」という特権が与えられています。

この仕組みを理解せず、何も対策をせずに利益を出しすぎると、本来払わなくて済んだはずの高額な税金を納めることになります。逆に、この「800万円の枠」を戦略的に使いこなせば、会社にお金を効率よく残し、最強の財務体質を築くことができるのです。

この記事では、中小企業経営者が絶対に知っておくべき「法人税の2段階構造」の仕組みと、それを活用した「着地戦略」について徹底解説します。

さらに、最新の税制改正(令和6年・7年度)を反映した「賃上げ促進税制(プラチナ認定優遇)」との組み合わせや、規制が強化された「経営セーフティ共済の再加入ルール」、そして「会社分割」のリスク管理まで。新宿で数多くの高収益企業の税務戦略をサポートしてきた私たちが、プロのノウハウを公開します。

第1章:【基礎知識】「800万円の壁」とは何か?税率構造と適用要件

まずは、日本の法人税がどのような構造になっているのか、法的根拠とともに正確に把握しましょう。

中小企業だけの特例「15%ルール」

日本の法人税(国税)の基本税率は23.2%です。しかし、資本金1億円以下の中小法人等には、「租税特別措置法 第42条の3の2」に基づき、時限的な軽減税率が適用されています。

【中小企業の法人税率(国税のみ)】
  • 年800万円「以下」の部分:15.0%(軽減税率)
  • 年800万円「超」の部分:23.2%(本則税率)

これに地方税(法人住民税、法人事業税など)を加えた「実効税率(実際に負担する税率)」で比較すると、その差は明確です。

  • 800万円以下の部分:実効税率 約21%〜22%程度
  • 800万円超の部分:実効税率 約33%〜34%程度

※実効税率は自治体の税率や会社の規模(外形標準課税の有無など)により変動します。上記は東京都の標準的なモデルケースです。

【重要】適用されないケース(除外要件)

「資本金1億円以下なら無条件で適用される」わけではありません。以下のいずれかに該当する場合は、「中小企業者」の特例から除外され、軽減税率が使えません(租税特別措置法42条の3の2 第1項等)。

  • 資本金5億円以上の大法人による完全支配関係(100%子会社など)がある場合
  • 複数の大法人に100%株式を保有されている場合

つまり、投資ファンド等が株主の場合でも、そのファンド自体が「資本金5億円以上の大法人」に該当し、かつ完全支配関係にある場合は適用除外となります。株主構成には注意が必要です。

第2章:【戦略】決算着地を「800万円」に寄せるテクニックと法的留意点

決算の2〜3ヶ月前にシミュレーションを行い、利益が大きく超過しそうな場合、適切な投資や決算対策を行うことで、利益を圧縮し、800万円ラインに近づける戦略が有効です。

戦略1:決算賞与の支給

従業員に「決算賞与」を支給することで、利益を圧縮しつつ、従業員のモチベーションアップを図ります。

【法的要件(法人税法施行令72条)】
未払計上(実際に支払うのは翌期)で当期の損金にするためには、以下の3要件を全て満たす必要があります。

  1. 決算日までに、支給額を各人別に決定していること。
  2. 決算日までに、その支給額を「全従業員に通知」していること。
  3. 決算日の翌月から1ヶ月以内に支払うこと。

【裁決・判例リスク】
特に注意すべきは「通知」です。過去の裁決(平成19年12月21日裁決など)では、「一部の社員に通知が到達していなかった」ことを理由に損金算入が否認された事例があります。通知は口頭ではなく、メールや書面で行い、全従業員に周知された証拠を残すことが重要です。

戦略2:経営セーフティ共済(倒産防止共済)への加入

掛金(月額最大20万円、年額240万円)を全額損金に算入できる制度です。「年払い(1年分前納)」が可能なので、決算直前に加入して年払いすれば、最大240万円を経費計上できます。

【令和6年度改正:再加入の制限(重要)】
これまで、この制度は「解約してすぐに再加入し、再び損金を作る」という節税テクニックが横行していましたが、令和6年度税制改正により規制が強化されました。
現在は、「解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金」は損金に算入できません。安易な脱退・再加入はできなくなったため、より長期的な視点での運用が必要です。なお、解約手当金が100%戻る「加入期間40ヶ月以上」というルールは変わりません。

戦略3:30万円未満の資産購入(少額減価償却資産)

青色申告をしている中小企業者(常時使用する従業員数が1,000人以下)なら、取得価額が30万円未満の減価償却資産は、年間合計300万円まで即時償却(全額経費)が可能です(租税特別措置法67条の5)。

【否認リスク】
「100万円のシステム一式を、請求書を分けて20万円×5枚にした」ようなケースは、資産の単位判定として否認されます(機能的に一体であれば1つの資産とみなされます)。

第3章:【上級編】「分社化」による軽減税率活用と、租税回避リスク

事業規模が拡大した場合、「会社を2つ作る(分社化)」ことで、それぞれで軽減税率の枠(800万円×2社)を活用する戦略があります。

しかし、これは税務上、最も慎重な判断が求められる領域です。

法人税法132条(同族会社の行為計算否認)のリスク

単に税金を減らすことだけを目的として、実体のない会社に利益を分散させた場合、税務署長はその計算を否認し、実質的に一つの会社として課税することができます。これが「伝家の宝刀」と呼ばれる法人税法132条です。

【否認されやすいケース】

  • 事業目的や従業員が重複しており、分ける合理的な理由がない。
  • オフィスや設備が完全に同一で、区分経理がされていない。
  • 売上の付け替えや、恣意的な経費の配分が行われている。

過去の裁判例(東京高判 平成18年2月23日など)でも、株式保有割合を操作して軽減税率を享受しようとしたスキームが否認されています。

分社化を行う場合は、「事業部門の切り分け」「地域別管理」「リスク分散」といった、税金以外の明確な「経済合理性(事業上の理由)」「実態」が不可欠です。

第4章:【さらに税金を減らす】「賃上げ促進税制」との最強の組み合わせ

軽減税率(15%)から、さらに税金を減らす方法があります。それが「税額控除」です。

現在、国が最も力を入れている「賃上げ促進税制」は、中小企業にとって強力な武器です。

制度の概要(中小企業向け)

青色申告書を提出している中小企業者等が、従業員の給与総額を前年度より一定割合増やした場合、その増加額の一部を法人税額から直接差し引くことができます。

【控除率と要件(令和6年度・7年度改正反映)】

  • 給与総額を1.5%以上増加:増加額の15%を税額控除
  • 給与総額を2.5%以上増加:増加額の30%を税額控除
  • さらに上乗せ要件:
    • 教育訓練費を増やす(+10%)
    • くるみん・えるぼし認定を受ける(+5%)
    • プラチナくるみん・プラチナえるぼし認定を受ける(+10%)
      ※令和7年度改正により、より上位の認定を取得している企業の優遇幅が拡大しました。
    → これらを組み合わせることで、最大45%〜50%近くの税額控除が可能になります。

【上限】
ただし、控除できる金額は、その年の法人税額の20%までです。

第5章:【FAQ】軽減税率に関する実務Q&A(16選)

最後に、軽減税率の適用や関連する論点について、実務的なQ&Aをまとめました。

Q1. 赤字の会社には関係ない話ですか?

A. 赤字なら法人税はゼロですが、繰越欠損金の知識は必要です。

赤字であれば利益に対する税金はかかりませんが、「法人住民税の均等割(約7万円)」は必ずかかります。また、青色申告をしていれば赤字を10年間繰り越せるため、将来黒字になった時に相殺して税金を減らすことができます。

Q2. 資本金が1億円を超えるとどうなりますか?

A. 軽減税率が使えなくなり、税負担が急増します。

資本金1億円超の法人は「中小法人」の枠から外れ、全額が本則税率(23.2%)となります。さらに「外形標準課税」の対象となり、赤字でも事業規模(付加価値割・資本割)に応じた税金がかかるようになります。

Q3. 大会社の子会社でも軽減税率は使えますか?

A. 使えません(100%子会社の場合など)。

資本金5億円以上の大法人による完全支配関係がある場合などは、中小企業向けの特例措置の対象外となります。

Q4. 役員報酬を上げて利益を800万円以下にするのはアリですか?

A. アリですが、個人の税金とのバランスが必要です。

役員報酬を上げれば会社の利益は減り、法人税は安くなります。しかし、個人の所得税・住民税・社会保険料は上がります。個人の税率は累進課税で高くなりやすいため、トータルでどちらが得かをシミュレーションする必要があります。(※別記事「役員報酬の黄金バランス」参照)

Q5. 軽減税率はいつまで続きますか?

A. 令和9年(2027年)3月31日まで延長されています。

令和6年度税制改正により、適用期限が2年間延長されました。ただし、恒久的な法律(法人税法本法)ではなく「租税特別措置法」による時限措置である点には変わりなく、将来的な税率変更や廃止の可能性は常に意識しておく必要があります。

Q6. 利益が800万円を超えそうなら、来期の売上を遅らせてもいいですか?

A. 「期ズレ」は脱税行為とみなされるリスクがあります。

納品が完了しているのに請求書の日付だけ変えて来期の売上にする行為は、税務調査で最も厳しく指摘される「売上計上時期の操作(期ズレ)」です。重加算税の対象になり得るため、絶対に行ってはいけません。

Q7. 複数の会社を作る「分社化」は、税務署に否認されませんか?

A. 「事業実態」と「合理的な理由」があれば認められます。

前述の通り、単に税金を減らすためだけのペーパーカンパニーは法人税法132条により否認されるリスクがあります。明確な事業上の理由と実態が必要です。

Q8. 軽減税率は「申告書」でどうやって適用するのですか?

A. 法人税申告書の別表一等で計算します。

特別な申請書を出す必要はなく、確定申告書を作成する際に、800万円以下の部分と超える部分を分けて税率を掛けて計算します。税理士に依頼していれば自動的に適用してくれます。

Q9. 地方税(事業税など)にも軽減税率はありますか?

A. はい、あります。

法人事業税や法人都民税・県民税などにも、所得金額に応じた超過税率が設定されている場合が多いです。国税と同様に、所得が低い方が税率が優遇される構造になっています。

Q10. 創業1年目はあえて赤字にした方がいいですか?

A. 銀行融資を考えるなら「黒字」にすべきです。

節税だけを考えれば赤字の方が税金は安いですが、赤字決算は銀行からの信用を損ないます。創業融資の次は追加融資が必要になることが多いため、少額でも良いので「黒字(かつ800万円以下)」に着地させるのが、財務戦略としては最強です。

Q11. 減価償却費を計上せずに利益を調整してもいいですか?

A. 法人税法上は任意償却ですが、銀行評価は下がります。

法人は減価償却費を好きな金額(限度額まで)で計上できます。利益が出ない年に償却費をゼロにして黒字に見せることは可能ですが、銀行は「償却前利益」を見るため、実質的な赤字であることはバレます。

Q12. 交際費の800万円枠とは別枠ですか?

A. はい、全く別の制度です。

交際費の損金算入枠(800万円)を使って利益を減らし、その結果残った利益に対して軽減税率(800万円以下の15%)が適用される、という関係です。併用することで強力な節税効果を生みます。

Q13. 青色申告を取り消された場合、軽減税率はどうなりますか?

A. 軽減税率自体は使えますが、他の特典が消えます。

軽減税率は青色申告の特典ではないため、白色申告でも適用可能です。しかし、欠損金の繰越控除や少額減価償却資産の特例など、他の重要な節税メリットが全て使えなくなるため、青色申告の維持は必須です。

Q14. 「800万円」は売上のことですか?利益のことですか?

A. 税引き前の「利益(所得金額)」のことです。

売上から経費を引いた「所得」が800万円以下かどうかが基準です。売上が1億円あっても、利益が800万円なら全額軽減税率が適用されます。

Q15. 資本金を増資して1億円を超えたら、その期から税率が上がりますか?

A. 原則として「期末」の資本金で判定します。

期中に増資して期末資本金が1億円を超えた場合、その期の申告から軽減税率が使えなくなります。逆に減資して1億円以下になれば、その期から使えるようになります。

Q16. 経営セーフティ共済の解約手当金はいつ課税されますか?

A. 解約した事業年度の「益金(収益)」として課税されます。

解約手当金は雑収入として計上されるため、法人税の課税対象になります。したがって、赤字の年や、退職金を支払う年など、大きな損金が出るタイミングに合わせて解約しないと、節税効果が相殺されてしまう点に注意が必要です。

まとめ:800万円は「最強の利益水準」

中小企業にとって「利益800万円」というラインは、税負担を最小限に抑えつつ、銀行からの評価(黒字決算)も獲得できる、まさに「最強の利益水準(スイートスポット)」と言えます。

一流の経営者は、決算の数ヶ月前から着地見込みを予測し、必要な投資や賞与を行って、このラインを狙って着地させます。

「今年の利益がどれくらいになるか分からない」という状態は、経営として非常に危険です。

私たち荒川会計事務所では、決算の3ヶ月前から「着地予想」と「節税シミュレーション」を行い、あなたの会社のお金を最大限に残すためのサポートを行っています。

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

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